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第一章〜日常の崩壊〜


4 Fallen Angel













様々な者達が集う酒場


謎多き場所




堕天使




























先程まで着ていた黒い服から着替えた亜美は、細い路地裏を進んでいた。
月明かりだけを頼りにいつもの酒場を目指す。
しばらく歩いていくと、何処をみても寂れた小さな家に見える建物の前に着いた。
そこで少し変わったリズムでドアをノックする。
数秒後静寂をやぶり、閂を開けドアの開く音がした。
ドアの中から白髪の老人が出てきて恭しく礼をする。
「本日は何用ですかな?」
いつもと同じ、抑揚のない声で尋ねられ、亜美はいつもと同じように返す。
「クレル様との約束を。」
老人は再び礼をして、亜美を中へ入れ、再び閂をかけると、壁の蝋燭立てを動かす。
すると隠し扉が現れ、その中の階段を下っていく。
初めて来た時は驚いたものだが、もうなれてしまった。



階段を下りきると、そこはあのボロボロの小さな家とは別世界であった。
この地下にある広い部屋の隅には趣味の良いアンティークが並べられ、カウンター席では何人かの人間が談笑している。
また、広間の中央には小さなステージがあり、ピアノの演奏をしている。
人が多い割には静かだと言えるが、それでもピアノの音はあまり聞こえない。
辺りを見回すと指名手配犯から大貴族まで様々な人間がいる。
此処は、特殊な場所だった。
此処では法に触れるような物を売買したり、国の高官との密談する時にも使われている。
ルールは唯一つ。此処で他人の血を流さないこと。つまり喧嘩をしないこと。
しかし、そんな奴は滅多にいない。
この街で裏の世界に生きる者達が普通に、美味しい酒を飲めるのは此処くらいなもので、 それを破ったものは、2度と此処に入ることはできないからだ。



老人と亜美はその広間を通り過ぎ、廊下へ歩いていく。
そして、老人はその突き当たりで止まると、扉をノックした。
「クレル様、お連れの方がいらっしゃいました。」
そう言うとドアを開け、中で座っている男に向かって礼をした。 そして亜美が中に入ったのを見ると、そのまま一人で戻っていった。
亜美は男の正面の椅子に腰をおろすと、 いつのまにか出されていたジュースに口をつけた。
「それで、盗ってきたものは?」
目の前のクレルという偽名で呼ばれた若い男が言った。
無言のまま”天使の涙”を出す。
それを受け取った男は光にかざして色々な方向から見た。
「これでいいのかな?火紅山かぐやま聖也様?」
「ああ。大丈夫だよ。本物だ。仕事料はいつものように。」
厭味を込めていた言葉は普通に返されたので、その首飾りをしまっている聖也に向かって、「わかった。」としぶしぶ頷いた。
「それにしても、双子の姫の片割れである君がこんなことをしていると知ったら、みんなはどういう反応をするのかな?」
「私としては高等部の王子プリンスと呼ばれる貴方のしていることを知った時の反応の方が見てみたいわね。」
きっぱりと言い返して、残りのジュースも飲み干す。
「今度はいつ?」
「また連絡するよ」
それを聞いて、亜美は立ち上がり、「ではまた。」と言い残して扉から出て行った。














「これで全部揃ったか・・・」
一人部屋に残った聖也はぼそりと、そう呟いた。











































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5/24 緑風 花音