第一章〜日常の崩壊〜
第一章〜日常の崩壊〜
1 school
気づくいた時彼女は、辺り一面草原が広がっている丘にいた。
他には何もない、ただ広いだけの場所。
あまりにも不思議で非現実的な光景に、そこにいた少女、亜美は手をつねってみる。
やはり痛みはしない。
今夢の中にいるのだ。
どうすれば自分が目覚めるか・・・
考えれば考えるほど馬鹿らしくなってくる。
しかし、じっとしていても、どうしようもない。
彼女は少し下に下りてみた。
それは正解だったようで、誰かの声が聞こえてきた。
誰がいるのだろう?と更に下りてみると、そこには3人の子供がいた。
一人は、炎のような深紅の長い髪をした少女。
一人は、月の光のような白銀で、ウェーブがかかった長い髪をした少女。
そしてもう一人は、虹のような七色に光る髪をした少女。
3人とも全くといっていいほどそっくりな顔立ちをしている。
しかし、その少女達は亜美に気づかないのか、そのまま遊び続けている。
声をかけようか、亜美はとても迷った。
でも、次の瞬間、虹色の女の子がこちらを向いた。
他の二人は亜美に気づく様子もないのに・・・
亜美は少女を見た。
その虹色の瞳と目が合った瞬間、亜美に衝撃が走った。
「あなたは・・・・・」
そこで亜美の言葉は途切れた・・・
次の瞬間、気付くと亜美は現実の世界にいた。
ホッとしたのもつかの間、
目を開けると、自分のノートが目に入り、
それで、授業中だったことをやっと思い出す。
・・・・・嫌な予感がする。
いかにも静まりかえりすぎているのだ。
亜美は意を決して顔を上げると、
自分の前には、どの生徒からも恐れられている鬼教師。
「雲宮さん、よく寝ることはできましたか?」
顔はにこりとしたまま、声が絶対零度という恐ろしい国語教師はそう言った。
「・・・・・」
クラスの誰も何も発しない。
「放課後、私の部屋へ来て下さいね。」
亜美は心の中で泣きながら、自分自身を呪いたくなる。
今日は最悪な日だ・・・・・と亜美は思った。
その時には夢を見たことさえ、すっかり覚えていなかった。
此処は私立王都学園。
のんびりとした校風の、幼稚園から大学まである、国一番の有名な超エリート校である。
そんな学園のとある場所・・・
「なんで私はあの時あの場所で昼寝なんかしたのおぉぉぉ!?」
授業の合間のお昼時、亜美の絶叫が当りに響く。
「亜美・・・気持ちはわかるけど、一応誰が聞いてるかわからないから声抑えて・・・」
亜美の隣の少女が、なんとか宥めようとする。
彼女の名前は雲宮雪乃。彼女はその蒼い髪が波打ってところや、優しげな雰囲気以外は、亜美と全く変わらない。
二人は双子だった。いや、きっと双子だと言った方が正しいかもしれない。
「だってよりにもよって、あの国語教師だよ!?あのクラスを担任してるくらいの人だよ!?
数学とか理科とか社会とか(ようは国語以外)だったらよかったのにいぃ・・・」
亜美の愚痴は続く。その教師は自分のクラスの担任だろうとお構いなし。
「なんで!?昨日も一昨日も十分寝たのに!?今朝も眠くなかったのに!?」
そしてがっくりと沈み込む亜美を、少し哀れみの目で見ながら、雪乃はお茶をすすった。
「・・・こういうとき本当にいい場所見つけたなと思うなぁ・・・・・」
雪乃はぼそりと呟き、ゆっくりと周りを見回す。
二人がいる場所は木に囲まれていて、誰かに見つかることも、話を聞かれることも滅多にない。
学園内に何故こんな場所があるのかは疑問だが、亜美や雪乃にとってはとても便利な場所だった。
「亜美、本当にそれくらいにしないと、誰か来るよ?困るでしょう?」
今までぶつぶつと呟いたかと思ったら叫ぶ、ということを繰り返していた亜美はその言葉でピタリと止まって、
口を閉ざし、静かになった。
彼女はそうしなければいけなかった。
「・・・・・やっぱり、まだまだ完璧には程遠いなぁ・・・」
亜美は小さく呟いて、先程とは違い静かに、礼儀正しく、食事を始めた。
それを見た雪乃は、一瞬悲しい目をしたがすぐに元の表情に戻り、亜美のお茶をくんだ。
「今日は仕事だっけ?」
しばらくして食べ終わり教室へ帰る頃になって、雪乃が思い出したように亜美に聞く。
「あ・・・すっかり忘れてた。じゃあ、今日はいつもみたいに遅くなるから。」
少し申し訳なさそうに亜美は言った。
でも、何故亜美がそんな顔をする必要があるの・・・?
そう心で悲しげに呟いた雪乃だったが、さっきとは違い表情を変えなかった。
「わかった。じゃあ、ご飯作って待ってるね。」
雪乃はそういって、亜美とは反対の方向の校舎にある自分のクラスへと戻った。
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