第一章〜日常の崩壊〜2

第一章〜日常の崩壊〜


2 moon


豪華絢爛な造りのこの学校にとって、ごく普通という所はあり得ない。

教室の黒板の周りにもは精巧な飾りがついている。

廊下も広く、床には高価な赤い絨毯が、壁には隅々まで芸術的な彫刻

が施してある。

しかし、それで派手過ぎないのは不思議だ。

すべてのバランスが取れている。

そんな所もこの学校がこの学校である所以なのだ。






亜美は颯爽と広い廊下を歩いていた。たまにすれ違う女の子達に挨拶さ

れてはは笑顔で返し、そのまま歩いていく。

しかしその表情とは裏腹に、内心では嵐が吹き荒れていた。



先程、国語教師から課題をいいわたされたばかりだったのだ。

しかも、亜美の嫌いな書き取り。それも5ページにもわたる文を書き取れと

いうことだそうだ。

文字も明らかに小さく、びっしりとつまった感じの文だ。


まだ普通の問題プリント5枚なら楽だったのに・・・


問題であったなら書くことは少ないため、早く終わらせられる。

あの教師にはそれがわかっていたのだろう。


最悪・・・・・・・


表情は平静を保ったまま、心の中で盛大に悪態をついた。

本当に今日は厄日だ・・・・・


ふとそこで曲がり角から金のふわふわとした長い髪をもった女の子が、

こちらに近づいてくるのが見えた。

くりくりとした琥珀色の大きな瞳はその少女、沙野さの月姫つきひめの幼さともいえる

可愛らしさを強調している。

彼女はこの学校に最近転校をし、亜美たちの特別クラスに入った。

これは前例のないことだ。

しかし、成績は次席、つまり亜美のすぐ下につけている。

それも僅かな点数差しかない。

そもそも特クラスに転入できるというところからありえない。

『特別クラス』は特別なのだ。

亜美の(表面上、演技上の)性格とは違う種類の良い性格―天然―なので

今の所は嫌がらせなどという事も起こっていないらしい。

「亜美様、奇遇ですわ。こんな所でどうなさったのですか?」

少し高めの可愛らしい声で聞きながら月姫は首をかしげた。

そんな姿に内心イライラしながら、亜美は口を開く。

「国語の時間の居眠りの課題ですわ。これもすべて自業自得なのですけ

ど・・・」

「そうなのですか・・・大変ですわね・・・」

「なんとか明日までにはできるよう頑張りますわ。」

「ええ、では私もお祈りいたしています」

彼女は笑顔でそう言った。

「では、ごきげんよう」

亜美は月姫が苦手だった。

何を考えているのかわからないというのが一番の理由だ。

しかしそれだけではなく、なんとなく勘というかなんと言うか、あの娘は

奇妙な感じがするのだ。

頭の中身と性格があっていない気がするのは気のせいだろうか?

普段の生活では天然な感じがあるが、授業中などはどうだろう?

絶対にミスはしない。

テストでもそうだ。

これは私の考えすぎだろうか・・・・・?




亜美はその後振り返ることもなく歩み去っていった。

そして、その後ろ姿を月姫がずっと見ていた。








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2006/1/14