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第一話〜運命の扉〜
7 monochrome world
一度開きし運命の扉
彼の者の子達を待ちうける
それは幸福か否か
神に望まれた最後の生の
その数奇な運命終わりし時まで・・・
扉を開けた先は、奇妙な世界だった。
今、亜美の目に映るのは、白黒の風景。
今残っている先の文明の品の中でも特に珍しい、写真というものを見ているようだ。
その場所は、風一つなく、全てが静止している。
色のない世界という物があれば、この事を言うのだろう。
頭の許容量を越してしまったのか、変に納得してしまった。
とりあえず、頭の中を整理しようと思い、亜美は深呼吸した。
そう、先程警官隊に捕まり自分は逃げたのだ。
でも何故警官隊は追いかけてきたのか。いや、そもそもどのようにして彼らはクラウドの事を掴んだのか。
しかし、それは今考える事ではないだろう。
とりあえず何らかの理由で自分は追われ、逃げ込んだ先が袋小路であった。
後ろからは警官隊の足音が徐々に近づき、逃げ道が無くて困っている時その扉を見つけた。
そこへと逃げ込むより他にできる事もなく、その扉の枠をくぐったその時に、周りはがらりと変化した。
そして現在の状況だ。
周りの草原は草から花に至るまですべて白黒で、自分の目がおかしくなったかと思ったが、自分自身に目を向ければ普通に色がある。
そして、足元の草も遠くにある木も、全く動かない。試しに歩いてみた所、踏んだ所は普通にしなったが、とても不気味だ。
何か違和感を感じていたが、しばらくして気づく。此処には音がないのだ。
自分が動く時の微かな物音さえ大きく感じるほどの静寂。足を動かそうが、草は音を全く立てなかった。
草原なのに、虫の羽音もなく、動物の鳴き声もない。
”生”という物がどこか抜け落ちているような感じだった。
極めつけはその問題の扉だ。
何度後ろを振り返っても、扉は影も形もない。あるのは白黒の草原だけ。
そもそも何も無かったからこそ袋小路と判断したのに、何故扉があったのか。そこからしておかしい。
いくら動転していたとしても、何も気づかなかった自分も自分・・・
次の瞬間、心臓がびくりと波打った。
「誰だ」
何も動かないはずの、何もいないはずの、何も音の無いはずのその空間の中で、亜美を驚かせるのにはその小さめの声で十分だった。
少し低めの女性の声、あるいは、少し高めの男性の声。
亜美が反射的に振り返ると、その白黒の世界の中に、漆黒のドレスをまとった人が音も無く立っていた。
飾り気の全くないシンプルなドレスには裾に少し白い模様が入っており、肩には黒のレースのショールを羽織っている。
それはその長くゆるく一つに編んでいる黒い髪にとてもよく映えていた。
「そういう貴方は誰ですか?」
その整った中性的な顔立ちに見とれて少しぼおっとなっていたのか、無意識のうちに亜美はそう言い返していた。
「我は名も無き者。此処、時空の狭間を治める者の使い。
あえて名を使うとすれば、クロノスとでも。」
抑揚のない声で、その人は言った。
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2006/9/5 緑風 花音