真さんのリク 恋愛短編



     此処はレイラ国。

     穏やかな気候のこの国は、人々の性格も同様に穏やかで、この頃は特に大きな事件はなく、皆が平和に暮らしている・・・・・





               〜夜と月のように〜





     「はあぁぁ・・・・・」

     レイラ国レイラ城の1室で、17,8歳くらいの可愛らしい少女が大きくため息をついた。

     腰までおろした、艶やかで真直ぐな黄金色の髪は、少女の深い茶色の瞳にとても似合っている。

     「面倒くさい・・・・・」

     ―――これからまた習い事ばかりだ・・・。ダンスに器楽、裁縫などなど・・・。剣を練習する暇さえない・・・・・。

     この少女レイラは、この国のたった一人の王女であり、珍しい女騎士であった。

     勿論、父王の反対はあった。だから、騎士の訓練が終わった今、こうして習い事全てをこなすことを余儀無くされている。

     しかし、今でも習い事の合間に訓練を重ねその腕は落ちていない。元々、力はないので、日々の鍛錬が必要なのだ。

     レイラは、右耳に騎士にとってはただのアクセサリーであるピアスをはめている。だがそれは、この国の女の人にとって既婚の印となる。

     なので、それをどうどう受け止めるか、人々は困っている。といっても、大多数の人々は結婚したくないからだろうと噂している。

     そのピアス―翡翠でできた十字架―は『5年前のあの日』からいつもレイラがつけているもので、それもその噂に拍車をかけていた。

     当の本人は、その事に関してまったく気にしていない。―――人がどうこう言おうと、自分は自分なのだ。


     「姫様、もうそろそろダンスの時間です」侍女が扉をノックして話しかける。

     「はい・・・」暗い声でそれに応じたレイラは再び深い溜息をつく。また憂鬱な1日が始まるのだ・・・・・





     「あ゛〜・・・お腹減った・・・・・」

     先程から9時間たった今、レイラは夕食を食べるために今日最後の習い事の部屋を出た。

     つい口から出た言葉も傍の侍女がとがめる。

     「姫様はしたないですよ。それに今、御夕食を召し上がりに行くところではないですか。」

     教育係みたいになっている侍女リィスに言われ少しムッとした。――腹減ったと言わないだけいいじゃん、と。

     とても一国の姫が考えることではない。

     「・・・・・わかりましたよ」心の中でぶつくさ言いながら、歩いていくとすぐに食堂に着いた。

     「お父様、只今参りました。」扉のところで一礼し、王である父フレスト3世の正面に座る。

     毎日の日課である食事だが、何故か今日は少し違った。

     まず食事を始めてしばらくしてから父様がおっしゃった言葉。

     「あぁ我が愛しのライラ姫・・・・・天国でどのような顔をしているだろう・・・・・?」

     ついつい、呆れ半分な目で父様を見てしまった。

     ちなみに、ライラとは10年前亡くなったレイラの母であるライラ王妃である。レイラの名付け親でもある。

     建国の母、レイラ女王の様になって欲しいという思いからこの名を付けたというが、この名はどうしても好きになれなかった。

     何故王妃を姫と言ったのかはとても疑問であったが、次の一言でその理由はわかった。

     「さてレイラや。お前も今年で17になる。もうそろそろ何処かの国の王子と婚約でもとは思わんか?」

     「思いません」反射的にキッパリと断る、のだが唯我独尊の王はレイラの断りの言葉と同時に

     「そうかそうか、やはり婚約したいか」と言い、全くもって聞く気がない。

     「さて、それなら明日にでもお見合いをするかなぁ。」

     「はい?!」

     フォークが左手から皿の上にするりと滑り落ちる。カンっという金属音が、静かな部屋の中に響き渡る。

     「午前11時に行う。絶対にそのピアスは外すのだぞ。」

     かつっと、右手で持っていたナイフがテーブルに突き刺さる。レイラ本人は何も気づいていない。

     「え!?私の意見は無視ですか?」

     「今日は早く休み明日に備えなさい。」

     そう言って再び食事を再開する。きっとこの父の事だ、以前からこのことは決まっていたのだろう。考えただけでも頭が痛い・・・・・

     こうなったら一日だけでも家出を・・・・・

     「言い忘れていたが、明日はその王子が来るということでな、今夜から警備が厳重になっているから。・・・・・逃げれぬぞ」

     「うっっ・・・・・」やはり腐っても父。娘の事はよくわかっていらっしゃる・・・・・

     でも結婚なんてしたくない。何のためにあの日から苦しい思いまでして騎士の訓練をうけてきたというのか?

     すべて結婚しなくてもいいためにやってきたのだというのに?

     父様にわかるはずがない。わかって欲しくもない。このピアスの・・・・・クルスとの誓いも全て・・・・・





     レイラはそのまま、どんより食事を終え部屋に戻った。

     ――なんとかしなくちゃ・・・・・

     しかし彼女はどこかでわかってしまっていた。もうどうにもならないことを・・・・・

     姫であろうと騎士であろうと、王の忠実な臣下であることに変わりはない。

     無意識のうちに、右耳のピアスに手を添えクルスと出会ったときに思いを馳せる。

     「もうあの時には戻らない・・・もう戻れない・・・・・」

     ついと涙が零れ落ちる。

     後から後から流れてくる涙。

     止めようと思っても止められないそれは、

     時に辛い運命とあまりにも酷似していた。




     『5年前の事件』の日に私はクルスに出会った。

     今では馬鹿らしいと思うような理由で、隣の国との国境にある、黒い森と呼ばれる森に入った時のことだ。

     その森の中、迷ってしまった私は、途方にくれていた。

     「・・・・・月の妖精?」

     いきなり出てきた彼は、私がいることにびっくりして一時停止した。

     だからであろう、わけのわからない事を口走ったのは。

     彼の国では全く違う意味合いを持つのだが、『月の妖精』というのは私の国では忌々しいものとして知られていた。

     だから私は売り言葉に買い言葉で、漆黒の髪と眼をした彼に「じゃあ、あなたは夜の帝王?」と言った。

     それはレイラ国のおとぎ話に出てくる悪役の事だ。

     ”月の妖精は夜の帝王と共に、太陽の妖精を襲った。しかし太陽の力は強大で、全てを滅ぼすことはできなかった。

      そこで太陽は夜の帝王と結託し一日を半分に分けるようにした。

      その日から地上に真っ暗な『夜』ができ、夜の時間だけに月の妖精が顔を出すようになった。

      だから人々はその夜を恐ろしがり、家からは出ない。”

     この話はレイラ国の子供なら誰でも知っているのだが、違う国には通じない。

     だから彼は黙ってしまった。意味がわからないのは当然のことだろう。

     「人間?」

     クルスはいぶかしげに聞いた。

     「当たり前です!」

     思いっきり睨んで言うと、彼は目を丸くして大声で笑い出した。

     「な、何?」

     「あっ悪い悪いっっ・・・・・」

     そういっても、なお笑い続ける彼を一睨みすると、クルスはようやく笑い終わった。

     「そうだよな、お前があの優しい月の妖精なわけないよな、悪い悪い。そういえば夜の帝王って何?」・・・・・・・・・・




     ――そういえば見合いの相手何処の国の王子か聞いてなかったな・・・・・。リィスを呼んで、聞いてみよう。

     「リィスっ、リィス」

     「何でしょうか?」

     リィスを呼んだはずなのに、何故か違う侍女が出てきた。

     「あれ?リィスは?」

     「ええと・・・」

     いつもはスラスラと答える侍女が、何があったのか、渋っている。

     おまけに目が泳いでる。

     「答えなさい、命令です。リィスはどこ?」

     我ながら、やりすぎと思わなくもなかったが、もしリィスが何か事件に巻き込まれていたら困ると思い、無理矢理納得した。

     それを言われた侍女は命令には背けるはずもなく、彼女はしぶしぶ答えた。

     「いいですか?絶対私が言ったなんてリィスさんに言わないでくださいよ。」

     ぶつぶつ言いながら、そう前置きし、びっくりするようなことを言った。

     「リィスさんは、王様の命で姫様の婚約者(?)のところへ言ったのですよ。」

     その言葉を聞いて、レイラは一瞬固まった。

     「え・・・なんでリィスを?じゃあ、リィスは明日帰ってくるの?」

     まだ硬くなっている声で聞く。

     「何故かは存じ上げませんが・・・。リィスさんは、そうですねぇ・・・早朝には帰っていると思いますが?」

     ――まったく・・・・・。一体なんの目的で、あの親父は・・・

     レイラはもう我慢できないとばかりに部屋を飛び出して、父の部屋を目指す。

     「父様!」

     「レイラか。まだ寝ていなかったのか?」

     いきなり入ってきたレイラに驚く様子もなく、様々な書類に目を通しながら、普通に言う。

     「リィスは?」

     「あぁ、リィスには例の王子の所まで少し使いとして出した。」

     これにも驚く様子なく答える。きっと私の来ることがわかっていたのだろう・・・。

     「わかったら、もう寝なさい。明日は大変なのだから。」

     書類から目を上げもしない父にイライラとしながら、もう1つ質問をする。

     「その王子は何処の国の何と言う王子ですか?」

     これにはさすがに目を上げてこちらを見る。

     しかし顔色は変えず、いけしゃあしゃあと言う。

     「わかってしまったら、面白くないではないか。」

     ――お見合いに面白さを求める人が何処にいるんですか・・・?

     しかし滅多なことでは言い返せない。

     なにしろ厄介なことに、相手は王様だ。

     「わかりました。」

     レイラは父を思い切り睨みつけてからどたどたと帰った。

     「やはりレイラをからかうのが一番楽しいな。」

     まぁ程々にしないと後が怖い気もするが・・・

     「しかし、何故、長年睨み合っていた隣国、クルシッドが申し込んできたのかのぅ・・・?」

     レイラの噂は絶対聞いているはずなのだが・・・。何故うちの国なのだ?同い年の姫だって他の国にもいるはずだし・・・?

     「まぁレイラと結婚したいという物好きも珍しいから、まぁいいか。」

     一人呟く、楽天的なこの国の最高権力者だった。







     次の日・・・・・


     「姫様、起きて下さい。」

     いつものように起こされ、『昨日のことは夢だろう。絶対そうに決まってる。』と思ったレイラ姫。

     しかし次の瞬間にその思いは飛んでいってしまった。

     「今日は、姫様のお見合いの日ですからねぇ」

     ――あぁ・・・やっぱり・・・・・

     「お見合いしないといけないのかなぁ・・・?」

     ぽつりと呟く。

     「それはそうですよ。下手をすると国際問題になりかねませんからね。」

     リィスがその呟きを聞き取って、答える。

     ――べつに答えを要求してたわけではないけど・・・ってあれ?

     「リィス何時帰ってきたの?」

     ぱっと振り向いて、寝る前にはいなかった侍女に聞く。

     「ええと・・・今から約7時間前ですね。あっ大丈夫ですよ?ちゃんと寝ましたから。」

     「それはよかった・・・って違う!」

     色々と頭がこんがらがっているレイラは言い返す。まだ半分寝ぼけていたようだ。

     「では何ですか?」

     「今日のお見合い相手のところにいってきたんでしょ?どんな人だったの?」

     リィスは、レイラが勢いよく聞くとにっこりして答えた。

     「姫様、お見合いする気になったんですね。それはよかった。」

     「ねぇ何処の国?どんな人?」

     リィスの言った事は黙殺し、再び同じ質問をする。

     「すみません、王様に止められているんですよ。」

     さわやかな笑顔で言う。

     しかし、その言葉を受けてうなだれていたレイラを可愛そうに思ったのか、少しだけ教えてくれた。

     「珍しい髪色をした、とても眉目秀麗なお方ですよ。歳は姫様より3つ程上で。」

     「珍しい髪色?」

     「ええ、この国にはいないんじゃありませんか?」

     もっと他の事を聞きたかったが、リィスに止められ、それ以上は聞けなかった。

     そして急かされるまま、食事をし、着替えに移った。



     「あ〜いやだなぁ・・・」

     お見合いまであと1時間に迫りがっくりしていた。

     レイラの頭の中は相手をどうやって断るかでいっぱいになっている。

     ――そもそもなんで相手は了承したの?お見合いに?私の悪い噂はたくさん流れているのに・・・?

     王がこちらから申し込んだとばっかり思っているレイラは、そのことが頭から離れない。

     昨日フレストが考えた事とほとんどおなじである。

     「あっそうだ、仮病を使えば!」

     とっさに考えたことを口に出す。

     しかしそれも近くにいた侍女が言い返す。

     「今日は体調も万全だと王に連絡しましたが?」

     「・・・・・」

     返す言葉もない。

     「もう!言い返さないでよ!」

     レイラは頭の中がごちゃごちゃになって、訳のわからないことを言う。

     「なら口に出さないで下さい。」

     ――言い返せない・・・

     「一人にならせて・・・」

     疲れ果ててしまったレイラは頼み込む。

     リィスはしぶしぶ隣の部屋に戻った。

     ふと時計を見上げると、ちょうど10:30を指し示していた。

     ――もうあと30分か・・・

     そして時は刻々と刻まれ、侍女が出てきた。

     「姫様、もうそろそろお時間です。」

     ――もう時間か・・・

     「リィス、やっぱり行きたくない・・・」





     その頃、王はレイラが来るまで、例の王子と少し話しをしていた。

     「しかし、何故レイラなのですか?勿論、悪い意味ではありませんぞ?ただ、悪い噂を沢山きいているでしょう?」

     そういうと、言われた相手は苦笑いをしていた。

     彼は、とても整った顔つきの、美男子だった。

     きっと他の国からも、縁談話はたくさんきているだろう。

     「ピアスもしていますし?」

     「それを知っているなら何故?」

     「王様・・・」

     少し気まずげな顔で、リィスが入ってきた。王子にお辞儀をしてから王の傍による。

     「実はレイラ様が、どうしても嫌だと・・・」

     王の耳元で、他の者に聞こえない様言うと、王は大きくため息をつく。

     「すみません、クルサトル王子、あれが少々問題を起こしまして・・・」

     「問題とは?」

     王子はお茶をすすりながら聞いた。

     「どうもお見合いしたくないと駄々をこねているそうで・・・」

     「そうですか・・・」

     少し苦笑いのような顔をして言葉を返す。こうなる事がわかっていたかのようだ。

     「レイラ姫の部屋へ行かせては頂けませんか?」

     その言葉にびっくりして、王は目を白黒している。一体この人は何を言い出すのかと。

     「えぇ、いいですけれど・・・?」

     「ありがとうございます。」

     「リィス、案内して差し上げなさい。すみません、王子」

     「いいですよ、きっとこうなると僕も思っていましたし。」

     そういうと彼は、侍女に付いていった。





     「姫様入りますよ」

     そういうとリィスは扉を開けて、中に入っていく。

     「姫様、実は相手の王子様がいらっしゃっているのですが・・・」

     「えっ?」

     「入っていただいてもよろしいですか?」

     「・・・・・」

     レイラは黙ってしまったので、それを肯定と思い、王子を呼ぶ。

     「すみません、あんな状態ですが、よそしいでしょうか?」

     「あ、そうですか・・・。今から少し失礼な事を言うかも知れませんが、黙っていて頂けますか?」

     リィスその言葉に少し驚いてはいたが、こちらに非はあると思い、了承した。



     黒髪の彼は、扉を開けて、言った。5年前と寸分変わらぬ言葉を・・・・・

     「・・・・・月の妖精?」

     その言葉に反応して、レイラはびくっとした。

     ――まさか、そんな・・・嘘・・・だって・・・

     レイラは彼の方を向いた。

     そして5年前より背が伸びて、立派になった彼を見た。

     「じゃあ、あなたは夜の帝王?」

     とても嬉しくて、震えた声になってしまった。

     「人間?」

     昔よりも少し低くなった声でいぶかしげに聞く。

     「当たり前です!」

     こちらも負けじと言い返すその言葉は全く一緒。

     「・・・レイラ、元気だったか?」

     その瞬間を待っていたかの様に涙が溢れ出す。

     どうしても止まらない涙。

     あの時は辛い運命に思えた涙。

     でも今は幸せな気分でそれを感じる。

     「クルス・・・」

     涙声になりながら彼の愛称を呼ぶ。

     そして5年ぶりに再会した彼らは互いに抱きしめあった。

       fin






リクしていただいてから、早5ヶ月。年も変わりました。

本当に遅れてしまってすみませんでした!!!

題名も、何だか変で・・・

しかも短編じゃなくなってるような・・・気が・・・・・

その分頑張って書いたので!(当たり前だ

それでは、再びキリ番踏めるといいですね!

444番 結城 真さんへ

2005/4/3 緑風 花音